持続的に成長するためには、事業の核となる「コア技術」をいかに選定し、育成していくかが重要です。代表的なコア技術の指標として「優位性」「独自性」「継続性」があります。確かにこれらは欠かせない要素ですが、近年の市場環境や技術革新のスピードを考慮すると、さらに新しい視点が必要になります。それが本記事のタイトルにある「移転可能性」です。
代表的な3つの指標
まずは簡単に一般的に使われる3つの指標を振り返りたいと思います。
- 優位性:競合に対して機能・性能、コストなどが優れていること。市場で勝つための必須条件とも言えます。
- 独自性:他社が簡単に真似しにくい特徴や知見を持ち、さらに優位であること。
- 継続性:将来に渡り市場価値を維持したり、拡大させることができること。持続的な事業展開に不可欠です。
これらは重要な指標であることは言うまでもありませんが、発展的な事業拡大の可能性を示唆するものとは言えない場合があります。私自身、新規事業開発の支援を行う中で、優位性や独自性が優れていても事業につながらない場面を多く経験してきました。
移転可能性とは何か?
移転可能性とは、ある技術が他の業界や事業に応用できる可能性を示します。
たとえ優位性が市場でNo.1ではなく、No.2やNo.3であっても、その技術が複数の市場に展開できるならば、自社にとって事業価値は大きく高まります。つまり「一つの市場で勝つ」だけでなく「複数市場で平均~それ以上の価値を提供できる」ことが、コア技術の新しい選定基準となるのです。
移転可能性が高い技術は、ある1つの市場における環境変化に左右されにくく、事業ポートフォリオの拡張や新規市場開拓に直結する可能性があります。これは、企業として安定化と成長性を両立させる上で非常に重要な要素となり得ます。
私自身の経験でも、技術の移転可能性に注力することで従来の製品ラインナップにはない、新規性が高い製品を開発したケースがいくつもあります。
移転可能性が高い技術
移転可能性を評価する際には、以下の観点を推奨します。
- 基盤技術:複数分野で共通の課題を解決する技術
- モジュール:機能ごとに部分的に組み替えができ、他用途に転用がしやすい技術
- 市場適応力:異なる業界・市場でニーズがありそうな技術
これらを満たす技術は、事業拡大の「つなぎ」として可能性があります。
事例で考える移転可能性
例えば、画像解析技術を考えてみます。
医療分野では検査や診断に活用されていますが、製造現場では完成品の品質管理に応用が可能です。さらに公道に設置されている監視カメラシステムに組み込むこともできます。
このように、一つの技術が複数の市場で価値を発揮することが「移転可能性」の典型例です。
また、材料技術も同様です。
自動車分野で培った軽量素材の技術は、航空機や医療分野にも展開事例があり、移転可能性の高い技術といえます。
ある製造メーカーのお客様では、民生用の軽量素材を一次産業向けに環境に配慮したグリーン製品へと応用し、事業拡大を成功させることができました。
移転可能性を戦略に組み込む
移転可能性を考慮することで、技術戦略と事業戦略の関係が強化されます。
技術開発の方向性を決める際に「この技術は他の市場でも活用できるか?」という問いを常に持つことが重要です。これにより、1つの市場に依存した状態から脱却し、複数の市場で収益を得ることが現実となります。
さらに、移転可能性を意識した技術選定は、研究開発への投資が効率化するというメリットもあります。
移転可能性の評価方法
移転可能性を評価する場合は、以下のような評価軸を設定するとよいでしょう。
- 市場数:応用可能な市場がいくつあるか
- 市場規模:各市場の潜在的な規模はどのくらいか
- 技術適合度:市場ニーズに対して技術がどの程度フィットするか
- 展開コスト:新市場への移転に必要となる開発投資はどの程度か
これらをスコアリングすることで、移転可能性を定量的に可視化できます。
以上のように、コア技術選定の指標として従来重視されてきた「優位性」「独自性」「継続性」に加え、今後は「移転可能性」を主役に据えてほしいと思います。
優位性がNo.1でなくても、移転可能性が高ければ事業価値は十分に確保できます。
技術戦略は事業戦略と密接につながりますが、移転可能性を追求することで、事業拡大の道筋をより確実に描くことができるはずです。
