はじめに
研究開発の現場では、次のような悩みをよく耳にします。
「技術としては面白いものになりそうなのに、事業につながるか分からない」
「技術力は高いはずなのに、新製品に活かしきれていない」
「特定の事業に特化した技術しか持っていないので、新規事業への活用は難しい気がする」
技術開発のリーダーであれば、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
企業の研究開発部門では、優れた技術が生まれているにもかかわらず、その技術が事業化につながらないという状況は珍しくありません。また、技術そのものの評価が高いにもかかわらず、事業としての方向性が見えないまま開発が続いてしまうケースも多く見られます。
この背景には、「技術評価」と「事業評価」の視点の違いがあります。
技術評価の特徴
企業でおこなう研究開発では、技術の価値は次のような観点から評価されます。
・特許を取得しているか
・狙う技術領域の知財が守り・攻めができているか
・競合に対して技術の優位性が担保できているか
また、
・競合と比較して技術力が高いか
・論文発表できるレベルに達しているか
といった点も重要な評価対象になります。
これらは研究開発として非常に重要な評価軸です。技術の独自性や競争優位性を確保することは、企業の技術戦略において不可欠だからです。
しかし、この評価はあくまで「技術としての価値」を評価するものです。
この評価だけでは、必ずしも「事業として成立するかどうか」は判断できません。
事業評価の視点
一方、事業として価値があるかどうかは、別の視点で評価されます。
例えば、次のような観点です。
・顧客ニーズに合致しているか
・顧客が直面している課題を解決しているか(顕在課題)
・顧客が将来直面する課題を解決できるか(潜在課題)
・市場が存在するか
・市場が成長する見込みがあるか
つまり、事業では
「誰のどんな課題を解決するのか」
が価値の判断基準になります。
技術として優れていることと、事業として成立することは必ずしも一致しません。ここに技術開発と事業化の難しさがあります。
技術シーズからの事業化の難しさ
技術シーズをもとにした事業化開発では、次のような状況がよく見られます。
技術としての機能や性能の進化の可能性が高く、世の中からの期待も大きい。
例えば昨今の生成AIのように、技術そのものへの注目度が高いケースです。
また、ある特定の市場ではすでに価値が認められている技術である場合も該当します。
しかし、新しい魅力的な市場が見いだせないことがあります。
新たな顧客像が描けない、あるいはその顧客が抱える課題が明確にならないのです。
例えば新しい樹脂材料技術の場合、自動車、電子部品、建材など複数の用途が想定されます。
研究開発の観点では、こうした幅広い用途への展開の可能性は大きな魅力です。
しかし事業化の観点では、どの用途を優先するのかを決めなければ投資判断ができません。
経営側から見ると、複数の用途が並ぶ状況では投資判断の材料がそろわず、意思決定が難しくなります。
その結果、
用途検討
↓
PoC
↓
用途検討
というループが繰り返されてしまうことがおこりえます。
用途ごとの評価試験やPoCが積み重なる一方で、事業としての意思決定が先送りされてしまうのです。
技術そのものの開発、つまり機能や性能の進化は着実に進んでいるにもかかわらず、事業化の判断ができない状態になります。
これは技術が不足しているからではありません。
むしろ技術としての可能性が高いほど、どの用途を選ぶべきか判断が難しくなるのです。
まとめ
技術が強いことだけでは、事業化の判断はできません。
技術シーズの事業化では、技術が実現できる機能や性能を追求するだけではなく、どの用途で価値を生み出すのかという視点が重要になります。
特に用途が広い技術ほど、この判断は難しくなります。
つまり、
技術の可能性を広げ続けるのではなく、
用途の仮説を検証しながら絞り込んでいく
という考え方が必要になります。
この視点が、技術開発と事業化をつなぐ重要なポイントになります。
